生と死を考える会の資料ライブラリー。身近な人を失った悲しみを分かち合い、いのちについて考え行動する開かれた場になる事を目指しています。

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講演抄録

在宅死の支え方  ~訪問看護婦として~

● はじめに
当訪問看護ステーションの利用者の七割近くが痴呆症状のある高齢者です。全く意志の疎通が図れない重度の方もいれば、見守っていれば、自立した生活を送れる方もいます。痴呆症であるがために自己決定が出来なかったり、治療について守れなかったりして介護者の精神的ストレス・身体的負担が生じています。介護保険が始まってから、在宅サービスを有効に使い、医療依存度が高くても在宅で見ていくようなケースが最近増えてきました。治療の必要もないケースを病院も長く抱えていられなくなった診療報酬の仕組みも影響しています。今回、在宅死に至ったケースを紹介し、医師・ケアマネージャー・訪問看護婦の役割について述べてみたいと思います。

● ケース1
利用者名:石田さん(仮名) 男性・84歳 
  病名:慢性呼吸不全・尿路感染症・前立腺肥大・神経因性膀胱(尿道にカテーテル留置され、キャップを開け、溜まった尿を出している)・老人性痴呆・難聴

  既往歴:79歳で尿閉となる。咳が続くので入院先で痰を調べたら結核が見つかる。その後、新宿の大病院で4ヶ月間結核の治療をし、退院。近くの泌尿器科の医師(佐藤先生・仮名)から内科の処方を受け、尿の管も往診で三週間に一度交換してもらっていた。

 家族:専業主婦だった妻(七十三歳)と次女(五十才)の三人暮らし。

 介護:要介護度は3で、利用している介護保険のサービスは電動ベッドのレンタルのみ。

 平成12年10月17日、以前より当訪問看護ステーションに依頼をしてくる開業医(檜山先生・仮名)より訪問看護の依頼あり。檜山医師がケアマネージャー(某ヘルパー派遣会社所長)から定期的な内科フォローを目的に診療依頼され、石田さん宅を訪問し診察したところ、全身状態が悪く、訪問看護が必要と判断。妻にも相談したところ、「是非お願いしたい」ということで訪問看護開始となる。

 妻は昔かたぎの人で、高齢の夫の世話は妻が見るのが当然と思い、頑張って介護していた。先日、ケアマネージャーが四カ月ぶりに訪問に来たので、床ずれが出来てしまったこと・痩せてしまったこと・痴呆症がひどくおむつを替えさせてくれないこと・寝てばかりいて動かないこと等を話す。見かねた佐藤医師が補助栄養食品の高カロリー飲料を処方してくれた。しかし、泌尿器科が専門なので、全身状態の管理や呼吸器疾患の治療は困難であるため、ケアマネージャーが勧める内科の檜山医師を頼むことにした。

 呼吸状態も在宅酸素を導入してもおかしくない状態であったが、活動性がないこと、痴呆症があり、酸素吸入は嫌がってしないだろうと予想されたため、檜山医師も経過観察とした。訪問看護婦は佐藤医師と連携を取る必要があるため挨拶に行ったが、佐藤医師は檜山医師が関わり始めたことを誰からも知らされていなかった。訪問看護が始まったいきさつを説明して、今後の連携をお願いしたところ、快く承知してくれ、これまでの治療経過を話してくれた。

 訪問看護では、床ずれについては局部の消毒、身体を清潔に保つようにし、ケアマネージャーに早急にエアマットのレンタルを依頼した。また、経口から栄養が十分取れるように介護食のアドバイスや、床ずれの予防について介護者に指導していった。約一ヶ月で床ずれは治癒したため、ケアマネージャーに訪問入浴を始めるチャンスだと連絡した。この時点でケアマネージャーの方からケアプランの作成を訪問看護ステーションで引き受けてくれないかとの打診あり。妻も承知したため、居宅介護支援事業者の変更を行なった。12月15日には初めての訪問入浴をした。

 12月に入って益々尿漏れがひどく、管の脇から七割方漏れてしまうようになる。12月27日、午後三時ごろ妻からステーションに電話が入り、その後檜山医師より「石田さんの状態が悪いので入院させようと思う」と連絡が入る。本人宅に行くと、石田さんはいつもと変わらず看護婦を見てニコニコしているが、妻は涙ぐんでいる。看護婦が不思議に思い妻に尋ねると、夫の入院の件で檜山医師と意見が対立し、怒鳴られてしまったとのこと。結局、檜山医師は以前入院したことのある新宿の大病院へ電話をし、石田さんを入院させてしまった。入院中は妻と次女が泊り込んで看病したが、点滴や痰の吸引、管の交換も拒否。大声を出すため大部屋では対応できず個室に入ったため、費用的にも大変であった。

 1月14日には退院。入院先の病院からの情報提供書には、これ以上病院にいても治療に対して拒絶が強く、断念したため帰します、といった事が記載されていた。退院後の訪問の印象は、入院前より明らかに全身状態が不良になっており、微熱が続き、尿の管も抜かれたまま、床ずれも再発し、何といっても本人が目も開けないし、話をしようともしない。1月16日、尿量も少なく下腹部も膨れており、点滴を受けるのだから尿路の確保が必要だと思い、看護婦が佐藤医師に相談に行った。その時に年末の檜山医師と妻とのやりとりや妻の気持ちなどを代弁して、佐藤医師のメインになってもらい、檜山医師の診療を断りたい旨を話した。翌日、佐藤医師が往診し、尿の管を留置してくれる。なんと膀胱内に850mlもの尿が流失し、その後300ml.位のクリーム様の膿尿が出てきた。完全に腎盂腎炎になっている状態で治療が必要だということになり、看護婦より今後は佐藤医師がメインとなって治療にあたることで檜山医師に説明した。

 以後、佐藤医師が中心となり治療を始めるが、益々全身状態が悪くなり、危険な状態であった。1月20日の夜中、0時50分に看護婦の携帯電話に次女から「今、お父さんが息を引き取ったようです」との連絡があった。佐藤医師への連絡も家族が済ませ、これから来てくれるとのことだった。看護婦による死後の処置を希望したため、午前1時30分に訪問する。妻は二人の娘や姪に囲まれ、突然の夫の死にうろたえていたが、見慣れた看護婦が来たため、安心した様子で佐藤医師が到着する間、お湯を沸かしたりして処置の準備を整えた。午前2時頃、佐藤医師が到着し、死亡診断をした。妻と一緒に石田さんの思い出話をしながら身体を清めた。

 葬儀が終り、改めてグリーフケアに伺ったとき、「今でも買い物で魚屋さんに行ったときなんが、つい、シャケのカマのところある?なんて聞いてしまうのよ。うちの人が好きだったからね。そのあと、ああ、もう居ないんだっけ・・・なんて思い出してね。そんなとき悲しくなるわ。夕方のチャイムがなるでしょう。早く帰んなくっちゃ、うちの人が待ってるわ、なんてね。もう居ないのにね。おかしなものね。長いこと病人の世話で私も大変だったんだけど、いざ終わってみると寂しいものね」

 これが石田さんとのたった3ヶ月の短い付き合いだった。今でも時々訪問で近所を自転車で走っていると妻とばったり会い、近況を話している。

● 訪問看護婦の視点から
介護保険開始後は特にチームアプローチが大切になっています。医師が最高責任者であり、ケアマネージャーが円滑な療養生活が営まれるための調整役となります。看護婦は医師に使われるのではなく、看護サービスの提供者としての独立した働きがあります。看護は、治療の術がなくなってもできることが山ほどあります。
 在宅ケアの中心は利用者とその家族です。どうしたいか、どうしてもらいたいかの決定は利用者と家族たちにさせることがポイントです。後悔しないように選択肢を分かりやすく説明し、進みたい方向が決まったら、各職種が専門技術を生かして全面的にバックアップしていきます。

 介護保険の要介護認定の判定を受けるためには主治医の意見書が必ず必要となり、医療と介護は切り離せないものとなりました。訪問看護も医師との関わりで一番神経を使っています。

 意外とよく知られていないのが、「往診」と「訪問診療」の違いです。往診は昔からあるもので、医師が患者の求めに応じ、患者宅に赴き診療を行なうことで、非定期的・非計画的な訪問をして診療する場合を往診と言います。1回ごとに往診料(650点:時間加算あり)が診療報酬の算定となります。訪問診療とは通院が困難な対象者に定期的・計画的に訪問して診療することで、寝たきり老人在宅総合診療料(2300点/月)を保険請求する場合、月に最低2回は訪問診療しなくてはなりません。

 訪問看護は介護保険・医療保険のどちらでも可能ですが、65才以上の場合は、介護度が「要支援」以上なら介護保険が優先され、介護保険での訪問看護となります。医療保険での訪問看護でも看護内容に違いはありませんが、患者さんの自己負担額に差があります。医療保険での場合は厚生労働大臣が定める病名のみが対象となります。介護保険での訪問看護はケアプランに組み込まれていなくてはならず、ケアマネージャーが「訪問看護が必要である」と課題分析する必要があり、また、医師から訪問看護指示書を発行(300点)してもらうことが必要です。

● 良い医師・ケアマネージャーの見分け方
介護保険開始後は特にチームアプローチが大切になっています。医師が最高責任者であり、ケアマネージャーが円滑な療養生まず医師についてですが、
1.家族の状況やバランスも見てくれるか。
2.治療を開始する前に丁寧な説明をしてくれるか(例えば点滴が必要な状態となったとき、それをどこで行なうか選択させてくれるか。家で行なう場合、何時ごろ始め、何時ごろまでかかるか。その間の管理の仕方やゴミの始末。何日間続けるのか等々、十分な情報を与え、家族にイメージできるような説明と教育をする)。
3.自分の専門外で診断や治療に自信がないときはすぐに専門医につなげてくれるか。
4.最近の医療事情、衛生材料や医療機器について分かっているか。
5.どんな患者も平等に診察してくれるか。

 次にケアマネージャーについてですが、ケアマネージャーは様々な職種の人が資格を得ており、兼務がほとんどです。ケアプランを立てる報酬が低すぎて(6500~8400円/月)、この仕事だけではやっていけないのです。

1.担当のケアマネージャーが過去にどういった仕事をしてきた人か。在宅ケアの経験はどのくらいか。今、やっている仕事のポジションや抱えている仕事量はどの程度か。
2 .公正中立か。
3 .所属している事業所にはその人の他に何名ケアマネージャーがいるか。
4 .フットワークはいいか。
5.問題が起こってからではなく、問題が起こらないように予測をしてケアプランを立てているか。
6.タイミングを分かっている人か。的外れなことをしていないか。

(抄録作成 広報委員 岩川令子)

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