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死別・悲しみ 生と死・考える

1. はじめに
1.1 wwwサイトへの掲載にあたって

1.2 原著への序文

【阪神大震災によるPTSDへの対応を支援する会】

2. 被害にあった人の支援にたずさわるみなさまへ
2.1 支援にたずさわるみなさまご自身のために

2.2 被害にあった人の心のケアに関するガイドライン

【付録】心的外傷後ストレス障害(PTSD)について

3. 被害にあわれたみなさまに
3.1 被害にあった人なら誰でもが感じること

3.2 体におこりやすい変化

3.3 少しでも乗り越えやすくするために

3.4 注意すべきこと

4. こころのケアの提供者のために
4.1 被害にあった人の心のケアに関するガイドライン

4.2 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

4.3 PTSDに対する薬物療法のガイドライン

 このほか下記wwwサイトにPTSD、児童虐待、DVに関する有益な情報があります。

4. こころのケアの提供者のために

 この章は、カウンセラー、臨床心理士、保健婦、ケースワーカーあるいは一般医(内科・外科・整形外科・その他精神科以外の医師)など、被害にあった人に1対1でゆっくり話を聞く機会のある専門家向けに作られています。
 そして、終わりの方には、一般医の方々に参考にしていただくために、PTSDあるいはその予備軍の患者さんに対する薬物療法のガイドラインを付記してあります。


4.1 被害にあった人の心のケアに関するガイドライン
4.1.1 安心感をはぐくむ
  1. 被害にあった人は自分の根底を覆されるような、深い心の傷を負っている可能性があることを忘れずに接することが大切です。一見気丈にしていても、心の底では傷つき疲れて弱っており、人のやさしさや思いやりを強く求めているのです。被害にあった人の言葉の中に、「そっと包んでほしい」とか「ふわっと受けとめてほしい」というものがありました。この気持ちに応えるためには、ケア提供者自身が心のトーンを下げて、ゆとりをもって接することが必要です。
  2. ケアをする人がいてくれるということ自体が、被害にあった人にとっては有り難いことです。ケアする人がいて、話相手になり、相談にのってくれるということは、被害にあった人の孤独感、無力感をいやし、失われていた安心感を回復します。ケアの持つ意味、その重要性を自覚していることが大切です。
  3. 提供できるケアの具体的な内容について、あらかじめ被害にあった人に知ってもらう必要があります。自己紹介をし、何のために会うのか、どのくらいの時間を提供できるのか、ケアする人は同じなのか、毎回変わるのか、いつ来ても会えるのか、予約が必要か、どの程度の間隔で訪問するのか、などです。ケアする人自身が自分の限界を知り、現実的な条件について、しっかり把握できていなければなりません。被害にあった人に伝えた条件は必ず守り、一貫性をもつようにしましょう。話し合う場所は、できるだけ静かで、プライバシーが保てることが必要です。
4.1.2 被害にあった人のニードにそって
被害にあった人の状況にふさわしい、見舞いやねぎらい、お悔やみの言葉をかけてください。「本当に大変でしたね」というような言葉でもいいのです。その後で、「今、どのようなことでお困りですか」とか、「何か相談なさりたいことはありますか」というように、被害にあった人の具体的なニードについて質問してください。そのニードにそって話し合いを進めていってください。実際的な問題が中心であれば、それについて相談にのり、他の相談窓口の紹介なども含めて適切な情報を伝えてください。そのような話し合いの中で、被害にあった人の話しぶり、表情、身振りなどから、できるだけ被害にあった人の気持ちをつかむように心がけましよう。
4.1.3 話を聴く
少し心が通い合うようになったら、「気にかかっていること」、「お悩みのこと」など、被害にあった人の気持ちについても尋ねることができるようになりますが、被害にあった人は、だれかに聞いてもらいたい、慰めてもらいたいと思っている反面、つらすぎて触れたくない、触れられたくないという気持ちも一方にあることが多いのです。気持ちを聞くときはできるだけ慎重にして、無理に聞き出すようなことは絶対にあってはいけません。つらい感情の中で、じっと堪えている被害にあった人の気持ちを察しながら、自然に話ができるようになるまで待つことが必要です。
4.1.4 気持ちを受けとめる
被害にあった人が、心の傷による深い悩みについて話を始めたときは、親身に聞いてください。聞いているときにケアする側に起こってくる、「大変でしたね」、「つらかったですね」というようなねぎらいの気持ちは率直に伝えてください。時には一緒になって、ため息をつくしかないようなときもあるでしょうが、それならそうしていればいいのです。その悩みから早く解放してあげようとか、何かをしてあげようなどと考えないで、しっかりと被害にあった人の気持ちを受けとめることが何より重要です。自分のつらい気持ちを受けとめてもらえたということが、被害にあった人に伝わることによって緊張がほどけるのです。
4.1.5 当然だと認める
  1. 被害にあった人が抱いている苦痛、悲しみ、無力感、悔やみ、絶望、怒りなどの感情は共感的にしっかり受け止めた上で、だれもがもって当然であることを伝えてください。ただ、人を助けられず自分だけ助かったことなどからおこる罪悪感、自責の念については、もつのもやむをえないことと認めた上で、「あなたは精一杯のことをされたのですから、ご自分を責めないでください。あなたのせいではありません」などと述べて、罪悪感の緩和を積極的にはかるようにしていきましょう。
  2. 被害にあった人にPTSD(後述)の症状が認められた場合は、今回のようなできごとのあとでは、ストレスへの正常な反応として、症状が出ても当然であるということを伝えてください。そのことを被害にあった人が認識することで、自分が弱いんじゃないかとか、異常なんじゃないかというような不安や恥ずかしさが消えて楽になります。また過剰な飲酒や仕事への過度の没頭などがみられた場合は、それを指摘してゆとりのある生活に導いていってください。被害にあった人が失わずにもっている、現実への健康な対処の仕方は、よく認めて評価してあげるといいでしよう。なお、PTSDの症状が強い場合は精神科医などの専門家への紹介が必要です。
4.1.6 怒り
被害にあった人は、ひどいめにあわされたという強い怒りを、時に、ケアする者に対して向けてくることがあります。被害にあった人の無意識の中で、ケアする者が加害者にされてしまうのです。そのような場合、「わたしに対して怒っているように感じられますが」というように指摘して、冷静にその怒りについて話し合うのがよいでしよう。
4.1.7 回復
 このようなケアを一貫して提供することによって、被害にあった人の心の傷が少しずつ癒され、記憶や感情に圧倒されたり、それらを抑さえこんだりすることが緩和され、ふたたび自分の力を信じて希望をもって生きてゆくことができるようになります。
4.2 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
4.2.1 心的外傷とは
 阪神大震災は、被災地に生きる人々の生命と生活を、一瞬のうちにはかり知れない規模で破壊してしまいました。被害にあった人はその体験について、「文字どうり大地が崩れる恐怖を味わった。その恐怖はとうてい口では言い表せない」などと述べています。
 心的外傷の本質は、人生の初期から親との愛着関係の中で育まれてきた安全感、安心感が、外界の圧倒的な事態にさらされ、覆されることにあります。すなわち、自分や家族の生命を脅かす危険がなく、衣食住が保障されている感覚(安全感)と、無力感や孤立感に脅かされず、他者と情緒的につながっていて、苦しい時には世話をしてくれる誰かがいてくれるという感覚(安心感)は、人間が生きてゆく上で最も不可欠なものです。これらの感覚が崩れるような出来事に遭遇することによって、心的外傷が起こると考えられます。
4.2.2 心的外傷に対する正常なストレス反応
心的外傷(以下、「外傷」と表現)の後には次のような反応がおきます。このような反応が起こることは自然で、正常なことです。

(1) 著しい情動の出現する時期

 外傷直後の数分から数時間、恐怖、悲哀、憤怒などの強い感情が溢れ出す時期です。

(2) 二相性反応の時期

 外傷時の苦痛な記憶や感情が、繰り返し思い出され、どんどん意識に侵入してきて、外傷体験が再現され、圧倒される感じになります。その一方で、それらの記憶や感情が余りにつらいため、意識から排除して、出来るだけ思い出さないようにして、心を閉ざして、麻痺させるようにしようとします。この両方の傾向が、せめぎ合い、交代する時期です。

(3) 回復の時期

 外傷体験に圧倒されなくなり、心の中で処理されて、将来に対する生きる意味が再確立されていく時期です。
4.2.3 PTSDの症状
 正常なストレス反応の二相性反応が強く表れ、長く続く場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼びます。PTSDを正常反応と連続的にとらえることが、その予防とケア、治療にとって重要です。

 PTSDは次の症状で特徴づけられます。

(1) 外傷的な出来事が持続的に再体験される。

  1. 思い出したくなくても、繰り返し思い出される。
  2. 繰り返し夢に見てうなされる。
  3. 出来事が実際に起きたようにありありと感じられる。(「フラッシュバック」後述)

(2) 外傷的出来事やそれと関係のある刺激を持続的に回避し、感覚や感情を麻痺させる。

  1. その出来事を思い出せない、考えられない、感じられない。
  2. 重要な事柄や活動に対する興味、関心がなくなる。
  3. 人と疎遠になって、自分が孤立しているように感じる。
  4. 感情の動きが乏しくなる。

(3) 生理的、心理的な過敏、興奮が持続する。

  1. 寝つけない。寝入ってもすぐ起きてしまう。
  2. 物事に集中できず、イライラして、怒りっぽい。
  3. 過度に怯えたり、警戒する。

(DSM-IVより抜粋)

 PTSDにはさまざまな合併症をともなうことがあります。よく出現するものに次のようなものがあります。

  1. うつ病(ゆううつ感、意欲減退など)
  2. 躁病(多弁、多動など)
  3. パニック障害(強度の不安発作)
  4. 恐怖症
  5. 解離反応(もうろう状態、多重人格、心因性健忘など)
  6. 身体化障害(頭痛、四肢の痛み、腹痛、嘔気、下痢、息切れなど)
  7. アルコールおよび薬物依存
  8. 衝動行為
  9. 幻覚妄想状態

 さらに心的外傷の影響で人柄が変り、対人関係に困難をもたらすこともあります。外傷後には感情が極端にあらわれたり、反応しないか、反応するときにはコントロールの効かない激しさであられたりしがちです。また、援助者を敵視したり、逆に万能な救済者のように過剰な期待を抱いたりしやすくなります。

4.2.4 フラッシュバック
PTSDでは、日常的な範囲のわずかな刺激であっても、心的外傷と関係があると、それが引金となって、外傷時の出来事が再現されることがあります。これをフラッシュバックと呼びます。PTSDにきわめて特徴的な現象です。
 ありありと体験されるため、実際に起こっているものと感じられて、幻覚や錯覚が生じることがあります。たとえば、余震でも震度7と感じられたり、シューッという音がするとガス管が破裂したときのことを思い出したり、トラックが轟音をたてて通ると、また地震がきたと思って息をのむなどという経験です。

 フラッシュバックが起こると、外傷時の、安全や安心が失われた、きわめて無力な状態がそのつど再現されることになります。

4.2.5 PTSDの出現率と発症の時期
 出現率は、およそ4%といわれますが、状況によっては50%以上の出現をみることもあります。発症の時期は、被災後数週間から6ヶ月以内といわれていますが、それ以後に発症するケースもあります。
4.2.6 PTSDの予防および対策
 正常なストレス反応であっても、それが長引くことがないように、次のような要因を考慮する必要があります。

(1) 二次的ストレス

 自然災害、犯罪、交通事故などは、社会生活、学校環境、個人の生活に甚大な影響を与え、それは長期にわたると考えられます。長引く不便な生活の中での苦痛や人間関係の葛藤がストレスを加重しています。このような二次的ストレスが累積すると、それが引金となって、フラッシュバックを呼び起こしたり、外傷時の体験を繰り返すおそれがあります。

(2) 社会的支持システム

 被害にあった人の生きてゆく環境が、信頼感、安心感の持てるものであれば、外傷の悪影響を抑え、それに対処しやすくなります。

(3) 外傷後の対処の仕方

 損なわれた安心感を回復するために、率直に人の助けやケアを求めることができるなら、健康な対処方法をとっているといえます。一方、人間関係から引きこもり、社会的に孤立し、アルコールに依存したり、仕事に強迫的に没頭したりする場合、ある程度は異常ではありませんが、長期にわたりそれのみに頼るなら、適切な対処法とはいえません。
 二次的ストレスが大きかったり、社会的支持が十分に提供されなかったり、不健全な対処方法を用いてしまった場合、正常なストレス反応が遷延する可能性が高くなります。遷延を防ぎPTSDを予防するには、二次的ストレスを軽減するための、具体的な援助と情報提供、および教育的アプローチが必要です。社会的支持の提供および対処方法の改善のためには、危機介入やケアが大きな役割を果たします。

4.3 PTSDに対する薬物療法のガイドライン
4.3.1 一般的事項
  1. 合併症を伴わない、正常なストレス反応に対しては一般に薬物療法は必要ではありません。そして薬物療法は、こころのケアを補助するものであり、心的外傷を再統合してゆく心理的プロセスに常に注意を向けている必要があります。
  2. こころのケアを妨げるような、強い恐怖、幻覚、不眠などの症状は薬物療法によって緩和されるべきです。
  3. PTSDに合併したうつ病、躁病、パニック障害などに対しては薬物療法が必要です。
  4. 心的外傷後のPTSDの段階、重症度に応じて、薬物療法は変えてゆく必要があります。一般に言えば、早期の合併症をともなわないPTSDには、薬物療法の必要は少なく、必要であっても短期間でいいのですが、慢性的に続き、重症で、合併症をともなうものには、薬物療法は長期間必要になることが多いと考えられます。
4.3.2 薬剤の選択
  1. 心的外傷時の記憶や感情が繰り返し意識に侵入してくるため日常生活に支障をきたす場合や、強度の易刺激性、イライラ感に対して、アドレナリン遮断剤が有効です。交感神経中枢を抑制するクロニジン(カタプレス)か、交感神経受容体遮断剤のプロプラノロール(インデラール)が第一に選択されるべきです。さらに抗うつ剤、ベンゾジアゼピンも使うことができます。たとえば、クロニジン(0.075mg)3T、アミトリプチリン(10mg)3T、アルプラゾラム(0.4mg)3Tなどを分3にして単剤で、もしくは併用で使用します。
  2. 強い不眠は、ベンゾジアゼピンで治療します。ただこの薬物は依存症と乱用の危険があり、その点の注意が必要です。効かない場合は、アドレナリン遮断剤や三環系抗うつ剤などの併用も検討すべきです。たとえば、エスタゾラム (2mg)1T、クロニジン(0.15mg)1T、アミトリプチン(25mg)1Tを眠前に投与します。
  3. PTSDにともなう合併症としての、うつ病、パニック障害、アルコールや薬物依存、恐怖症、全般性不安障害、躁うつ病などに対しては、スタンダードな薬物療法を行ってさしつかえありません。うつ病とパニック障害には三環系抗うつ剤が効果的で、躁うつ病にはリチウムやカルバマゼピンが有効です。たとえば、うつ病やパニック障害にはイミプラミン(25mg)3T、エチゾラム (1mg)3Tを分3で用います。躁うつ病にはリチウム(200mg)3T、カルバマゼピン(200mg)3Tを分3で投与します。
  4. フラッシュバックによる幻覚症状に対しては、幻覚が心的外傷から了解できるものであれば、薬物療法よりも、こころのケアが優先されるべきです。幻覚が、心的外傷に合致せず、奇異なものの場合は、メジャー・トランキライザーを必要とします。妄想に対しても、メジャー・トランキライザーがすすめられます。いずれの場合も、多量は必要としないことが多く、ハロペリドールなら、2mg/day 程度の小量で有効です。
なお、このような薬物療法に反応しない強い症状が見られた場合は、精神科医に紹介してください。